大学時代にボクシング部に所属していた。

毎日毎日、ひたすらサンドバッグを叩き続け、鏡の前でシャドウボクシングをして、強いボクサーを目指して練習に励んだ。

その頃チャンピオンになることしか考えていなかった。

大学への通学途中、電車で同じ方面から通うことから同じ学部のある女の子と友達になり、ときどき同じ電車に乗り合わせたら、最近読んだ本の話やこれまで観た映画の話など、またどんな授業に出て誰の講義が魅力的かなどを、阪急電車の京都線で語り合った。

そして俺がボクシングをしてることに興味を持ったそのガールフレンドは、ボクシングの試合を見に行きたいと言った。

彼女はとても忙しい大学生活を送っているようだったので、それだったら決勝戦を見に来たらいいよ、と答え、日にちと場所を伝えた。

決勝戦まで、勝ち続けるってことね、とガールフレンドは言い、

俺はそやなと短く答えた。

漫画みたいな話しやなと思うけれど、ほんとの話である。

決勝戦まで、1回戦2回戦3回戦4回戦と勝ち進まなければならない。そして当然準々決勝、準決勝と。

俺には勝つイメージしかなかった。

当時フェザー級が最激戦の階級。もっとも人数が多い階級、57キロ以下の階級である。普段は62キロほどの体重を二週間ほどで57キロまで減量する。

練習後、学食の前の売店でカップに入ったカルピスのフローズンを、先が小さなスプーン状になったストローで丁寧にちょびちょびと口に運びながら食べるのが至福であった。

そして決勝戦、

2ラウンド1分25秒、RSCで勝利した。RSCとはいわゆるKO勝ちである。

試合をガールフレンドが見に来てくれたのか、記憶にはない。試合当日は集中しているので、減量中でもあるのでそんな余裕はなかったのかもしれん。

このボクシング🥊の経験が今、高校ダンス部の指導に活かされているのかと問われれば、それは間違いなくイエスと答えることになる。チャンピオンになるために必要なことはこの時学んだ。

この経験がなければ、全国優勝を目指そうと生徒らに言うことはできないなと思う。

鏡の前でひたすら踊り続けるダンサーの姿は、同じように鏡の前でシャドウボクシングを続けるボクサーにどこか通じるものがある。

あの時のガールフレンドはどうしているのかな。今、どこでどんなくらしをしているのだろう。幸せに日々を送っているだろうか。

あの輝くような笑顔は今も変わらずにいるのだろうか。

青春の日々よ。